2016年3月30日水曜日

第66話「生ガキ」

Y氏は自宅に数名の知人を招き、生ガキを振る舞った。

「先日、故郷の漁師から生ガキを頂いたのですが、とても一人では食べ切れなくて」

食卓は生ガキで賑わっている。

「生モノですから、早めにどうぞ」

Y氏が勧めると食卓へ一斉に箸が伸び、生ガキは見る間に食べ尽くされて行く。

その後、雑談を交えて数時間が過ぎた。

「では、そろそろ」

Y氏が御開きを促すと、知人の一人が食卓を指差して言った。

「生ガキが一切れ残っています。誰か召し上がって下さい」

「どうぞ、どうぞ」

皆そう言って人に勧め、誰も生ガキに手を付けない。残り物には、時々当たりがある

というのに。

「では、私が」

Y氏は最後の生ガキを口にして、見事に食あたりを起こした。


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