往復切符を片手に、Y氏は特急列車に揺られながら遠方の行楽地を目指していた。
「隣は空いていますか」
一人の老人がY氏に声を掛けた。
「どうぞ、空いていますよ」
「じゃあ、失礼します。それにしても、最高の行楽日和ですね」
「まったく。今日はどちらまで」
気さくな老人は、すぐにY氏と打ち解けた。
暫くすると、車内放送が流れた。
「お客様に申し上げます。只今、この列車はハイジャックされ・・・」
騒然とする車内。すると突然、大きな爆発音が聞こえた。
「俺はまだ死にたくない」
取り乱すY氏に、老人は静かに声を掛けた。
「この辺で、旅は終わりですね」
「そんな馬鹿な。俺は往復切符を持っているのに」
「人生は、片道切符の旅なのです」
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