2016年10月28日金曜日

第99話「腹痛」

日の出スーパーはとにかく安い!その上、24時間営業だから有り難い。そんな事でY氏は日

の出スーパーの常連客だ。

ただ、一つだけ問題があった。日の出スーパーの食材でY氏は時々腹痛を起こすのだ。

それは弁当や総菜などの値下げ商品でよく起こる。古くなって痛んだ食材も、濃い味付けで

誤魔化せば何とか商品にはなる。そこへ値下げとくれば、つい手が伸びてしまう。

―安い分だけ物が悪いのだから仕方がない―

Y氏は腹痛を起こす度に、そう思って自分を納得させた。

しかし、ここ最近は頻繁に腹痛を起こしている。さすがにY氏も尋常ではいられない。

そこである日、Y氏はぶしつけに店員に言ってみた。

「正露丸は売っていますか?」

2016年10月21日金曜日

第98話「俳優生命」

二世俳優のY氏は父を亡くした。すると父のコネによる恩恵を失い、忽ち仕事が激減した。親

の七光りとはそういうものだ。

そんな時、父の親友でもあった映画監督がY氏に声を掛けた。

「俳優生命を賭けて、俺の映画に出てみないか」

Y氏は監督の助け船に乗った。

その後、撮影は順調に進んでラストシーンを迎えた。刑事役のY氏が、ロシアンルーレットで

命を懸ける場面である。

「生死の確立は二分の一だ。さあ、引金を引け」

マフィア役に促され、Y氏はピストルをこめかみに当て...

映画は封切りと同時に話題となり、特にラストシーンに見るY氏の迫真の演技は非常に高い

評価を得た。

使用されたピストルには実弾が込められ...

2016年10月14日金曜日

第97話「完全犯罪」

数年前、Y氏は隣人と些細なトラブルを起こした。以来、Y氏は隣人への憎しみを募らせ、遂

に決心した。

―隣人を消そう―

こうしてY氏は完全犯罪を目論み、ある計画を推し進めた。

そして一年が過ぎた。

―これで準備は整った―

季節は夏、時刻は夜半を過ぎた。隣人は既に寝静まっており、開け放たれたベランダの窓を

覆うレースのカーテンが夜風に揺られていた。

すると、そこへ一匹の蚊が舞い込んで来た。蚊は空中を漂うと、やがてカーテンをすり抜けて

部屋の中に入り込んだ。

血に飢えていたのか、蚊は寝息を立てる隣人を見付けるや否や、その首筋に吸い付いた。

―これで毒針の餌食だ―

Y氏は飛行士さながらにハンドルを握り、超小型カメラの画像を見つめていた。

2016年10月8日土曜日

第96話「籠の中」

―こうなったら、強盗するしかない―

アキラは金に困り果て、隣に住む一人暮らしの老婆に目星を付けた。

「おばあちゃん、少し話があるのですが」

「あら、アキラ君。どうぞ中へ」

老婆が快くアキラを迎え入れる。すると、アキラは用意していた紐を老婆の首に巻き付けた。

「アキラ君、何をするの。アキラ君、アキラ君...」

部屋に吊るされた籠の中の鳥が騒ぎを聞いてパタパタと暴れ出す。

やがて老婆は息絶えた。そして、アキラは何一つ証拠を残さないように慎重かつ速やかに事

を成し終えた。

数日後、アキラの家に警察官がやって来た。

「隣の老婆殺害の犯人は、お前だな」

寝耳に水である。アキラは証拠を残していない。だが、籠の中には一羽の九官鳥がいて...。