雨の中、女がY氏の元を訪れた。
「何かあったの?急に呼び出したりして」
女はY氏の顔を見るなり、開口一番にそう告げた。
「どうしても君に話したい事がある。まあ、入ってよ」
女は濡れた傘を玄関の脇に立て掛け、靴を脱いだ。
「話って、なあに」
「それが・・・」
つまりは、別れ話である。
「私は人生の半分を、ずっとあなたに捧げてきたのよ」
「分かってくれ。もう、この辺で終わりにしよう」
「何よ、若い女に目移りするなんて。最低だわ」
その言葉を最後に、泣きじゃくる女は表へ飛び出して行った。独り残されたY氏は玄
関に立ち尽くし、ただ一点を見据えている。
女が置き忘れた傘。それはY氏の傘の横に、そっと寄り添う様にして立て掛かってい
る。
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