2016年3月8日火曜日

第44話「傘」

雨の中、女がY氏の元を訪れた。

「何かあったの?急に呼び出したりして」

女はY氏の顔を見るなり、開口一番にそう告げた。

「どうしても君に話したい事がある。まあ、入ってよ」

女は濡れた傘を玄関の脇に立て掛け、靴を脱いだ。

「話って、なあに」

「それが・・・」

つまりは、別れ話である。

「私は人生の半分を、ずっとあなたに捧げてきたのよ」

「分かってくれ。もう、この辺で終わりにしよう」

「何よ、若い女に目移りするなんて。最低だわ」

その言葉を最後に、泣きじゃくる女は表へ飛び出して行った。独り残されたY氏は玄

関に立ち尽くし、ただ一点を見据えている。

女が置き忘れた傘。それはY氏の傘の横に、そっと寄り添う様にして立て掛かってい

る。

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