2016年9月30日金曜日

第95話「透視力」

ドクターKは遂に透視薬を完成させた。

「先生、素晴らしい発明です」

「確かに。では、さっそく効果を試してみよう」

ドクターKの見守る中で、助手は透視薬の一錠を服用した。

「先生、驚きです。先生の服が透けて見えます」

「では、もう一錠」

助手はドクターKに言われるままに、二錠目を服用した。

「先生、今度は壁の向こうまで透けて見えます」

「なるほど。ではもう一錠」

こうして助手は透視薬を服用する毎に、どんどんと透視力を高めていった。

「どうかね、君はもう三十錠を服用しているが...」

「先生、これは究極の透視力です。全てが透けて何も見えません」

「研究は大成功だ!」

「ところで先生、視界を元に戻す薬はあるのですか?」

「これから研究する」

2016年9月23日金曜日

第94話「盗撮」

ある日、Y氏の盗撮行為が発覚した。

「申し訳ありません。二度とこの様な事は...」

Y氏は深く反省して何とか事なきを得た。

だが数日もすると、再び盗撮の虫が騒ぎ始める。

―何か上手い盗撮の方法はないか―

Y氏は妙案を思い付き、あるドクターに相談を持ち掛けた。

「分かりました。手を尽くしてみましょう」

ドクターはY氏の相談を受け入れた。

その後、Y氏は性懲りも無く盗撮を繰り返した。しかも発覚の心配は無い。

「いかがですか、最新型カメラの具合は」

Y氏の手術から一週間後、ドクターはY氏に問いかけた。

「先生、驚きです!私の目がカメラになるなんて。しかも瞬きひとつで操作できるのですから」

あなたは撮られているかもしれない。誰かが瞬きをした瞬間に...。

2016年9月16日金曜日

第93話「歯痛」

ある金曜日の夜中に、Y氏の虫歯が突然うずき始めた。

家にあった痛み止めの薬を飲んで直ぐに治まったが、数時間で薬が切れると再び痛み出す。

そして又薬を飲むという応急処置を繰り返している内に、やがて薬が効かなくなってしまった。

―困ったものだ。土日は歯科医が休みだし...―

やがて痛みは激痛へと変わっていく。そこでY氏は薬を大量に服用し、更に歯痛に効くツボを

刺激して何とか痛みを紛らわした。

しかし遂に...、日曜日の夜になると痛みは我慢の限界に達した。

―もう、痛くて死にそうだ―

そして眠れない夜の果てに、ようやく迎えた月曜日。Y氏は開業時間に合わせ、すがる思いで

歯科医に直行した。ところが...。

「嘘だろう」

今日は祝日の月曜日だ。


2016年9月9日金曜日

第92話「親切な女性」

夏の炎天下、道端でうずくまっていたY氏に、偶然居合わせた年若い女性が声を掛けた。

「大丈夫ですか。熱中症かもしれません」

女性はY氏に付き添い、適切な処置を施した。そして、三十分もするとY氏は回復した。

「本当に助かりました。せめてお礼だけでも...」

「気にしないで下さい。私は通りすがりの看護師ですから」

女性はそう言って立ち去った。

それから数年後、Y氏はとある歓楽街を歩いていた。

「少し遊んで行きませんか?」

呼び込みに誘われ、Y氏は店内に案内された。

「いらっしゃいませ」

薄明かりの下で、ナース衣装の女が艶めかしくY氏を迎え入れる。

「あっ、あなたは、あの時の...。なぜ、こんな仕事を」

「これも、白衣の天使の仕事ですから...」

2016年9月2日金曜日

第91話「余命」

「お母さん、今日はいい天気ね」

K子が優しく声を掛ける。小春日和の下で、K子は車椅子を押しながら桜の並木通りを歩いて

いた。

母は余命半年の宣告を受けている。まだ四十八歳の若さだ。母はK子を出産して直ぐに離婚

し、女手一つでK子を育てた。そしてK子は一流企業に就職を果たした。

だが、ようやく母の肩の荷が下りた矢先に...。

ーずっと母のそばにいようー

母の余命宣告を聞き、K子は仕事を辞めて母の看病に専念した。それが最後の親孝行にも

なる。

「本当にいい天気」

母がそう言って空を見上げた時、いきなり乗用車が車椅子に突っ込み...。

「お母さん!」

母の死を悟ったK子。

ーいくら償ってもらえるかしらー

K子は薄ら笑いを浮かべながら、算盤をはじいた。