2018年10月16日火曜日

第112話「沖縄旅行」


 Y氏は生まれてこの方、北海道の地から一度も外へ出た事がない。

そんなY氏はつい先日、古い知人からこんな誘いを受けた。

「実は一週間後に、友人5人で沖縄へ旅行の予定になっていたのだが、その内の一人が急に行けなくなってしまって

知人は困り果てた様子で、更にこう付け加えた。

「既に予約を済ませているので高額なキャンセル料がかかってしまうのだが、もしYさんの都合が良ければ一緒に沖縄へ行かないか?」

「いいよ、予定は空いているから。ただ

Y氏は何故か言葉を濁した。

その後、旅行前日のギリギリになった時、Y氏は知人に次の連絡を入れた。

「よし、明日から一緒に沖縄へ行こう!今日、ようやくパスポートがとれたよ」

2018年7月18日水曜日

第111話「受刑者の罪」


「よし、今日からここがお前の部屋だ」

その日、Y氏は看守に連れられて雑居房に送り込まれた。

やがて一週間もすると、Y氏はすっかり他の因人達と打ち解けた。

「それにしても、Yさんの話は面白いな」

「ほんと、腹の皮がよじれそうだよ」

Y氏は暇さえあれば、他の因人に笑い話を聞かせた。

その晩も、因人達はY氏の話に聞き入っていた。

「アッ、ハッ、ハッ、ハッ


すると、一人の因人がお腹を抱えて笑い転げながら、絞り出すように声を上げる。

「もう止めてくれ!これ以上聞くと、笑い死にしそうだよ」

そこで、別の因人がY氏に話しかけた。

「ところでYさんは、ここへ何の罪でやって来たの?」

「俺はただ、友人に面白い話を聞かせただけさ

2018年4月24日火曜日

第110話「宅配便」


 K子は元交際相手からのストーカー被害を受け、心身共に疲労していた。
 
 警察に相談しても、まともに取り合ってはくれない。
 
 そんな中で、男のストーカー行為は更にエスカレートしていく

―このままじゃ、何をされるか分からない―
 
 身の危険すら感じていたK子は、やむを得ず新居へと移り住んだ。

―あの男は、もう二度と私の前に現れる事はない―
 
 それからというもの、K子の生活に再び平穏が訪れた。

 そんなある日の事、自宅の玄関チャイムが鳴った。

 インターホン越しに聞こえてきたのは宅配業者の声。

―楽しみに待っていた、あの荷物だわ!―

 K子は心弾ませ、そして玄関のドアを開けた。

 すると、二度と見る筈のない男が荷物を持って

2018年2月1日木曜日

第109話「極上かりんとう」

ある日、スーパーで買い物中のY氏は、偶然にも昔の知人と再会した。

「どうも、お久しぶりです。これ、食べた事ありますか?」

知人は、かりんとうのお菓子を手にしている。

「いえ、ありませんが」

「これ、味が極上ですよ

 知人は、それだけをY氏に言い残した。

―そんなに極上なのか?―

 Y氏が試しに買って食べてみると

「この甘さは、病みつきになる」

 それ以来、極上かりんとうはY氏を虜にした。

 後年、Y氏は道端で再びあの知人と偶然に出会った。

「また、お会いしましたね。ところで、極上かりんとう、食べてみましたか?」

「はい、確かに味は極上です。お陰様で糖尿病を患ってしまい