夏の海水浴シーズン。家族三人で海にやって来た四歳のケンタは、両親の目を盗んで
浜辺の波打ち際で戯れていた。
ーもっと、こっちにおいでよー
波に誘われるかの様に、ケンタは水に足を入れた。
ーもっと、こっちだよー
誘われるままに、ケンタは水の深みへと進んで行く。やがて足が立たなくなり、ケン
タは水の中でもがき苦しんだ。
「助けて」
その叫び声は両親には届かず、ケンタは意識を失いながらブクブクと水の中に沈ん
だ。
それから一体どれくらい時間が過ぎただろう・・・。ケンタの意識はやはり水の中に
あった。そこは苦しみの無い世界。むしろ居心地の良い世界だ。安心感に包まれた水
の中で、ケンタは成長を続けていた。臨月は、暫く先である。
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