2016年2月14日日曜日

第22話「駆け込み乗車」

その朝は特に寒気が強く、通勤で行き交う人々の吐く息が白い。

ホームで電車を待つY氏の髪が、師走の風になびいた。

暫くすると電車が到着した。Y氏が乗車して扉の脇に立つと、車内に冷たい空気が流

れ込んだ。

「扉が閉まります」

そんなアナウンスと同時に勢いよく階段を上り、電車に駆け込んで来るスキンヘッド

のオヤジがいた。

「駆け込み乗車は危険です」

オヤジはアナウンスを聞き流し、辛うじてY氏の目の前に乗り込んだ。よほど走った

のか、肩で息をしているオヤジの額からは、この寒さの中で大粒の汗がにじみ出てい

る。

冷えた空気が漂う車内で、熱を帯びたオヤジの汗は白い蒸気となり、スキンヘッドの

頂上から見事に立ち上った。

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