Y氏は夜な夜な、ひどい騒音に悩まされていた。自宅マンションから見下ろす大通り
を、頻繁に暴走族が通り過ぎて行くのだ。数十台もの改造バイクは地響きを伴う爆音
を発し、Y氏の聴覚に破壊的な衝撃を与えた。そのお陰で、これまでにY氏が安眠を
妨害された夜は数えきれない。
やがてY氏は耐え切れなくなり、引っ越しを決める。
そして数日後,Y氏は隣人に別れの挨拶を告げた。
「隣の者です。今日,引っ越す事になりました」
「それは突然ですね」
「はい、暴走族の騒音に耐え切れなくて。それにしても、ひどい騒音ですよね」
「確かに、ひどい騒音です。でも、私はこうしていますから」
隣人はそう言って、両耳から補聴器を取り外した。
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