作家、嵐山五郎の待望の書き下ろしが、間もなく完成しようとしていた。原稿用紙で
数百枚に及ぶ物語の出来栄えは、残りの数枚を如何に埋めるかにかかっている。
ーリアリティ、もっとリアリティがほしい・・・ー
ここへ来て、嵐山のペンの勢いがピタリと止まった。
「先生、そろそろ新作の発表の時期が近付いているのですが」
編集者の催促が、重圧として嵐山の肩に伸し掛かる。
それから数週間後、嵐山から原稿を受け取った編集者は、その出来栄えを絶賛した。
「先生、ラストの殺人シーンなどは正に天下一品です」
「やはり作家たるものは、究極のリアリティを追い求めるべきだよ」
嵐山はそんな言葉を残し、数日後に殺人の容疑で逮捕された。
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