とある寺院の講堂で、聴衆は名高き僧侶の講話に耳を傾けていた。僧侶の身を包む上
質な袈裟衣は、いかにも高貴な雰囲気をかもし出しており、その背筋はシャンと伸
び、高齢の割に足腰の方は達者に見受けられた。
「私は生への執着を断ち切った故、死を恐れません。だから、いつ死に直面しても、
私は心穏やかでいられるのです」
聴衆は皆ウンウンと頷きながら、僧侶の尊い話に聞き入っていた。
その時、いきなり地面が音を立て、グラグラと講堂が揺れ始めた。
「地震だ!」
誰かの声に促され、聴衆は一斉に立ち上がり、僧侶は講話を中断した。
「どけ、どけ」
僧侶は突然そう叫んで走り出すと、聴衆を押しのけて、我先に外へと逃げ出していっ
た。
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