「馬場さん、儲かっているかい」
競馬新聞を見ている同僚に、Y氏が声を掛けた。
「さっぱりだよ」
馬場は冴えない表情で答えた。
「馬場さん、博打は当てに行くから当たらない。そうだろう」
「じゃあ、何か他に一攫千金の良い方法があるのかい」
「勿論さ。大きな声では言えないけど・・・」
数日後、馬場が交通事故で死んだ。幼い子供と妻を残して。
Y氏は複雑な気持ちで、数日前に交わした馬場との会話を思い出した。
「馬場さん、当て物は当てに行くから当たらない。だったら、自分から当たりに行け
ばいい」
Y氏は馬場に、確かにそう言った。何か後ろめたい気もする。しかし付け加えて、こ
うも言っておいたのだ。
「但し、上手く当たる事が大前提だ」
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