Y氏の先輩に谷木という男がいる。谷木の楽しみは酒と博打、そして同僚の悪口を吹
聴する事だ。全く、しがないオヤジの悲しき末路と言えよう。
「谷木のオヤジ、早く定年退職しないかな」
同僚たちは口々に言った。
そんなある日、天の制裁が下る。谷木が咽頭癌で余命宣告を受け、自宅療養を始めた
のだ。Y氏は内心で喜びつつ、社交辞令で谷木の見舞に訪れた。
「早く元気になってくれればと...」
Y氏が声を掛ける。声の出ない谷木はアー、ウーと唸るばかり。
すると突然、脇にいた飼い犬がY氏に激しく吠え立てた。谷木は狼狽するY氏を眺め
ながら、何やら満足気でもある。
Y氏には、飼い犬の吠え声が何故かこう聞こえた。
「おい、心にも無い事を言うな」
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