2016年7月8日金曜日

第83話「酔客」

師走の夜、Y氏は空いた列車の座席に腰掛けると、赤色のマフラーを外して無造作に

座席の脇に置いた。

そこへ一人の酔客が乗り込み、Y氏の正面に座った。酔客が放つアルコール臭がY氏

の鼻を突く。

―少し離れて座ったらどうだー

Y氏が嫌悪感を示して酔客を睨み付けると、互いの目があった。

「何か文句あるのか」

酔客は、そう言いたげでもある。車内に険悪な雰囲気が漂う。

やがてY氏は列車を降り、改札へと向かった。やけに首元が寒い。すると、後ろから

足音が近付いてきた。振り向くと先程の酔客である。

―逆恨みかー

Y氏が身の危険を感じて走り出すと、酔客はその後を追いかけて大声で叫んだ。

「おい、忘れ物だ」

酔客は、赤色のマフラーを手にし...。

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