師走の夜、Y氏は空いた列車の座席に腰掛けると、赤色のマフラーを外して無造作に
座席の脇に置いた。
そこへ一人の酔客が乗り込み、Y氏の正面に座った。酔客が放つアルコール臭がY氏
の鼻を突く。
―少し離れて座ったらどうだー
Y氏が嫌悪感を示して酔客を睨み付けると、互いの目があった。
「何か文句あるのか」
酔客は、そう言いたげでもある。車内に険悪な雰囲気が漂う。
やがてY氏は列車を降り、改札へと向かった。やけに首元が寒い。すると、後ろから
足音が近付いてきた。振り向くと先程の酔客である。
―逆恨みかー
Y氏が身の危険を感じて走り出すと、酔客はその後を追いかけて大声で叫んだ。
「おい、忘れ物だ」
酔客は、赤色のマフラーを手にし...。
0 件のコメント:
コメントを投稿