夏の昼下がり、Y氏は散歩へと出掛けた。
ー俺は不運な男だー
Y氏が肩を落として歩いていると、道端で風鈴を売る露店商を見付けた。
「今時、珍しいですね」
Y氏が店主の老人に声を掛ける。
「はい、昔はお買い求めになる方も多かったのですが。今の人たちは、風情に耳を傾
ける心のゆとりを無くしたのでしょうね」
「私には、心のゆとりなど・・・。実は最近、リストラされたのです」
「良い機会かもしれませんよ。夢を実現させるには」
「夢、ですか・・・」
「よかったら、一つ差し上げます」
Y氏は風鈴を受け取った。風鈴に吊るされた短冊に力強く書き記された文字。
”僕は将来、ラーメン屋になりたい”
子供の頃、Y氏は同じ夢を記した記憶がある。
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