2016年6月17日金曜日

第80話「風鈴売りの老人」

夏の昼下がり、Y氏は散歩へと出掛けた。

ー俺は不運な男だー

Y氏が肩を落として歩いていると、道端で風鈴を売る露店商を見付けた。

「今時、珍しいですね」

Y氏が店主の老人に声を掛ける。

「はい、昔はお買い求めになる方も多かったのですが。今の人たちは、風情に耳を傾

ける心のゆとりを無くしたのでしょうね」

「私には、心のゆとりなど・・・。実は最近、リストラされたのです」

「良い機会かもしれませんよ。夢を実現させるには」

「夢、ですか・・・」

「よかったら、一つ差し上げます」

Y氏は風鈴を受け取った。風鈴に吊るされた短冊に力強く書き記された文字。

”僕は将来、ラーメン屋になりたい”

子供の頃、Y氏は同じ夢を記した記憶がある。

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