2016年1月28日木曜日

第7話「指定席」

その朝、通勤電車に乗り込んだY氏は高熱に侵されていた。

重要な取引が予定されており、どうしても会社を休めなかったのだ。

何時もと同じ先頭車両は満員で息苦しい上に、ひどい頭痛と倦怠感が容赦なくY氏を苦しめた。

ーもうこれ以上、立っていられない。どこかに空席はないかー

Y氏は車内を見回した。

空席はどこにも見当たらないが、視線の先に何時もと同じ座席に腰掛けている若者の姿があった。

満員の車内でゆったりと、まるで指定席であるかの様に。

やがて苦痛に耐え切れなくなったY氏は若者に近付き、そして思わず声を掛けた。

「お兄さん、たまには席を譲ってもらえますか」

その声は、ガラス越しに見える運転士の耳には届かなかった。

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