Y氏の携帯に女から連絡が入った。
「ねえ、私ともう一度だけ会ってくれないかしら」
Y氏は先日、女と別れたばかりである。二股をかけられたY氏の方が女に愛想を尽かしたの
だ。
「お前とやり直す気はないが、会うだけならいいだろう」
どうやら女はY氏に未練があるらしい。Y氏は女の要求を呑んだ。
そして数日後...
「やっぱり、私にはあなたが必要だわ。だから、もう一度やり直して欲しいの。実は私...」
女が涙ながらに辛い身の上話を始めると、Y氏は同情の顔色を浮かべて女の話に聞き入っ
た。
「話は、それで終わりか」
「ええ、そうよ。ごめんなさい、つい気持ちが高ぶってしまって...」
「それにしても、よくできた作り話だな」
2016年11月25日金曜日
2016年11月18日金曜日
第102話「郵便物」
郵便局の窓口に、二通の封筒を手にした客がやって来た。
「これ、各駅でお願いします」
客はそう言って、一つの封筒を局員に差し出した。
「各駅ですか。各駅...、普通便という事でしょうか?」
局員は戸惑いながら客の意向を確認する。
「そういう事です。出発進行!」
客はそう言って、車掌の真似をしてみせた。
「かしこまりました」
次に客は二つ目の封筒を取り出し、そして局員にこう言った。
「こちらは、特急でお願いします」
「特急...、速達便という事ですね」
「その通りです。出発進行!」
客は又しても車掌の真似をする。
その様子を見兼ねた母親が、局員に申し訳なさそうに言った。
「すみません。この子は大の電車好きなものですから...」
「これ、各駅でお願いします」
客はそう言って、一つの封筒を局員に差し出した。
「各駅ですか。各駅...、普通便という事でしょうか?」
局員は戸惑いながら客の意向を確認する。
「そういう事です。出発進行!」
客はそう言って、車掌の真似をしてみせた。
「かしこまりました」
次に客は二つ目の封筒を取り出し、そして局員にこう言った。
「こちらは、特急でお願いします」
「特急...、速達便という事ですね」
「その通りです。出発進行!」
客は又しても車掌の真似をする。
その様子を見兼ねた母親が、局員に申し訳なさそうに言った。
「すみません。この子は大の電車好きなものですから...」
2016年11月11日金曜日
第101話「消したい記憶」
―あんな記憶は、真っ白に消し去ってしまいたい―
Y氏を苦しめる悪夢の様な記憶。
三年前、Y氏の自宅が全焼した。焼け跡からは、見るも無残に変わり果てた妻と子供が発見
された。その光景はY氏の脳裏に深く刻み込まれ、未だに消える事はない。
以来、Y氏は深い悲しみの縁から抜け出せないでいるのだ。
そんなある日、Y氏は何時もの様に暗い表情ををして公園のベンチに腰掛けていた。目の前
では見知らぬ女と子供が楽しそうに戯れている。
すると突然、女はY氏に声を掛けた。
「何か悲しい事でもあったのですか」
「実は、三年前に妻と子供を亡くし...」
「消し去りたい記憶ですね」
「はい」
女は珍しい消しゴムを取り出し、Y氏の額をこすり始めた。
Y氏を苦しめる悪夢の様な記憶。
三年前、Y氏の自宅が全焼した。焼け跡からは、見るも無残に変わり果てた妻と子供が発見
された。その光景はY氏の脳裏に深く刻み込まれ、未だに消える事はない。
以来、Y氏は深い悲しみの縁から抜け出せないでいるのだ。
そんなある日、Y氏は何時もの様に暗い表情ををして公園のベンチに腰掛けていた。目の前
では見知らぬ女と子供が楽しそうに戯れている。
すると突然、女はY氏に声を掛けた。
「何か悲しい事でもあったのですか」
「実は、三年前に妻と子供を亡くし...」
「消し去りたい記憶ですね」
「はい」
女は珍しい消しゴムを取り出し、Y氏の額をこすり始めた。
2016年11月4日金曜日
第100話「スルメ男」
―俺は結婚できるだろうか―
Y氏は物思いに耽りながら、好物のスルメを酒の肴にビールをグイッと飲み干した。
Y氏は今年で四十歳になる。真面目で誠実、見た目も悪くないのだが未だに独身なのだ。結
婚するには十分に値する男なのだが...
Y氏は友人から、こう告げられた事がある。
「お前は奥深くて掴み所の無い人間だから、理解するには骨が折れる。それが結婚相手の見
付からない理由さ。早い話が、お前はスルメ男だよ」
そんな話を思い出しながら、Y氏はスルメをつまんで口に入れた。
―スルメ男とは上手く言ったものだ―
やけに感心しながら、Y氏はスルメをじっくりと噛みしめる。
スルメは口の中で、噛めば噛むほどに味わいを増し...
Y氏は物思いに耽りながら、好物のスルメを酒の肴にビールをグイッと飲み干した。
Y氏は今年で四十歳になる。真面目で誠実、見た目も悪くないのだが未だに独身なのだ。結
婚するには十分に値する男なのだが...
Y氏は友人から、こう告げられた事がある。
「お前は奥深くて掴み所の無い人間だから、理解するには骨が折れる。それが結婚相手の見
付からない理由さ。早い話が、お前はスルメ男だよ」
そんな話を思い出しながら、Y氏はスルメをつまんで口に入れた。
―スルメ男とは上手く言ったものだ―
やけに感心しながら、Y氏はスルメをじっくりと噛みしめる。
スルメは口の中で、噛めば噛むほどに味わいを増し...
2016年10月28日金曜日
第99話「腹痛」
日の出スーパーはとにかく安い!その上、24時間営業だから有り難い。そんな事でY氏は日
の出スーパーの常連客だ。
ただ、一つだけ問題があった。日の出スーパーの食材でY氏は時々腹痛を起こすのだ。
それは弁当や総菜などの値下げ商品でよく起こる。古くなって痛んだ食材も、濃い味付けで
誤魔化せば何とか商品にはなる。そこへ値下げとくれば、つい手が伸びてしまう。
―安い分だけ物が悪いのだから仕方がない―
Y氏は腹痛を起こす度に、そう思って自分を納得させた。
しかし、ここ最近は頻繁に腹痛を起こしている。さすがにY氏も尋常ではいられない。
そこである日、Y氏はぶしつけに店員に言ってみた。
「正露丸は売っていますか?」
の出スーパーの常連客だ。
ただ、一つだけ問題があった。日の出スーパーの食材でY氏は時々腹痛を起こすのだ。
それは弁当や総菜などの値下げ商品でよく起こる。古くなって痛んだ食材も、濃い味付けで
誤魔化せば何とか商品にはなる。そこへ値下げとくれば、つい手が伸びてしまう。
―安い分だけ物が悪いのだから仕方がない―
Y氏は腹痛を起こす度に、そう思って自分を納得させた。
しかし、ここ最近は頻繁に腹痛を起こしている。さすがにY氏も尋常ではいられない。
そこである日、Y氏はぶしつけに店員に言ってみた。
「正露丸は売っていますか?」
2016年10月21日金曜日
第98話「俳優生命」
二世俳優のY氏は父を亡くした。すると父のコネによる恩恵を失い、忽ち仕事が激減した。
親の七光りとはそういうものだ。
そんな時、父の親友でもあった映画監督がY氏に声を掛けた。
「俳優生命を賭けて、俺の映画に出てみないか」
Y氏は監督の助け船に乗った。
その後、撮影は順調に進んでラストシーンを迎えた。刑事役のY氏が、ロシアンルーレットで命を懸ける場面である。
「生死の確立は二分の一だ。さあ、引金を引け」
マフィア役に促され、Y氏はピストルをこめかみに当て...
映画は封切りと同時に話題となり、特にラストシーンに見るY氏の迫真の演技は非常に高い
評価を得た。
使用されたピストルには実弾が込められ...
そんな時、父の親友でもあった映画監督がY氏に声を掛けた。
「俳優生命を賭けて、俺の映画に出てみないか」
Y氏は監督の助け船に乗った。
その後、撮影は順調に進んでラストシーンを迎えた。刑事役のY氏が、ロシアンルーレットで命を懸ける場面である。
「生死の確立は二分の一だ。さあ、引金を引け」
マフィア役に促され、Y氏はピストルをこめかみに当て...
映画は封切りと同時に話題となり、特にラストシーンに見るY氏の迫真の演技は非常に高い
評価を得た。
使用されたピストルには実弾が込められ...
2016年10月14日金曜日
第97話「完全犯罪」
数年前、Y氏は隣人と些細なトラブルを起こした。以来、Y氏は隣人への憎しみを募らせ、遂
に決心した。
―隣人を消そう―
こうしてY氏は完全犯罪を目論み、ある計画を推し進めた。
そして一年が過ぎた。
―これで準備は整った―
季節は夏、時刻は夜半を過ぎた。隣人は既に寝静まっており、開け放たれたベランダの窓を
覆うレースのカーテンが夜風に揺られていた。
すると、そこへ一匹の蚊が舞い込んで来た。蚊は空中を漂うと、やがてカーテンをすり抜けて部屋の中に入り込んだ。
血に飢えていたのか、蚊は寝息を立てる隣人を見付けるや否や、その首筋に吸い付いた。
―これで毒針の餌食だ―
Y氏は飛行士さながらにハンドルを握り、超小型カメラの画像を見つめていた。
に決心した。
―隣人を消そう―
こうしてY氏は完全犯罪を目論み、ある計画を推し進めた。
そして一年が過ぎた。
―これで準備は整った―
季節は夏、時刻は夜半を過ぎた。隣人は既に寝静まっており、開け放たれたベランダの窓を
覆うレースのカーテンが夜風に揺られていた。
すると、そこへ一匹の蚊が舞い込んで来た。蚊は空中を漂うと、やがてカーテンをすり抜けて部屋の中に入り込んだ。
血に飢えていたのか、蚊は寝息を立てる隣人を見付けるや否や、その首筋に吸い付いた。
―これで毒針の餌食だ―
Y氏は飛行士さながらにハンドルを握り、超小型カメラの画像を見つめていた。
登録:
投稿 (Atom)