2020年1月5日日曜日

第117話「来訪者」


Y氏の住む地域は、セールスや勧誘の来訪者がやたらと多い。

“ピーンポーン”

その日も、Y氏の自宅のインターホンが鳴った。

―もう、今日はこれで5回目だ―

Y氏は居留守を使おうとしたものの、インターホンはなかなか鳴り止まない。

―いい加減にしろ!怒鳴りつけて、すぐに追い返してやる―

Y氏が玄関ドアを勢いよく空けると、そこにいたのは美人の女であった。

「突然に、すみません。少しだけ、お時間をいただけますか?」

Y氏は女の美しさにすっかり魅了され、男の下心に火がついてしまった。

「よかったら、中でゆっくりと話を聞きますので、どうぞお上がりになって下さい」

「では、お邪魔いたします」

すると、玄関の脇からペアの男も現れて

2019年10月7日月曜日

第116話「魅力的な男」

Y子が元カレと別れたのは3年前。

「もう、出会いなんてないのかな

このままいくと、40歳までには必ず結婚したいというY子の願望は叶いそうにない。

そんなある日、Y子がとある喫茶店に立ち寄っていると

―何だか、向かいの席にいる男の視線が気になるわ―

Y子はソワソワしながら少し落ち着かなかった。

―きっと、私の思い過ごしよね

Y子は自分にそう言い聞かせ、そして店を出ようとした時、

「あの

向かいの席にいた男がY子に声を掛けてきた。

その後、二人の交際が始まり、Y子は男との結婚を真剣に考えるようになった。

そんなある日、Y子は男の部屋で、読み古された一冊のこんな本を見付けた。

“女を騙す結婚詐欺師の手口”

2019年7月10日水曜日

第115話「ピアノ騒音」

最近、Y氏の向かいの家からピアノを弾く音が聞こえるようになってきた。
 
初めのうちは、ごくたまにしか聞こえてこなかったので、さほど気になる訳でもなかった。
 
ところが
 
ある時期から、土・日になると必ず聞こえるようになってきた。
 
しかも、何時間もだ。
 
週末の休日は家でゆっくりと過ごす事の多いY氏にしてみれば、少なからず迷惑な話だ。
 
時には、朝の7時くらいにピアノの音で目を覚ます事もあった。

「いくらなんでも非常識ではないか?」
 
Y氏の怒りは、やがて頂点へと向かう。

―よし、黙らせてやろう―
 
Y氏は向かいの家のポストに、そっと匿名の手紙を投函した。

「昔、ピアノ騒音〇人事件があったの、ご存知ですよね

2019年4月12日金曜日

第114話「眠りの後」


Y子の美貌は、この界隈ではかなりの噂である。

「私って、そんなに綺麗かしら?」

そんな独り言をつぶやきながら、Y子はいつも鼻高々だ。

その夜、Y子は行きつけのバーカウンターに座った。
 
「いつもの、ちょうだい」

お世辞にも美人とは言えない女バーテンダーに、せせら笑いながらオーダーするY子。

女バーテンダーは、いつものように横目でY子を睨み付けた。

差し出されたカクテルを1杯飲み干したY子は、なぜか強烈な睡魔に襲われる。

そして、いつの間にか深い眠りに入り

気が付けば、Y子は見知らぬホテルの一室にいた。

なぜか顔のあちこちに痛みを感じ、Y子が何気に鏡を覗きこむと

「この顔、いったい誰?」

Y子の美貌は一夜にして失われ

2019年1月14日月曜日

第113話「とびきりの笑顔」


 Y子の笑顔は、とびきりに素晴らしいと評判である。

 特に、その口元から覗く真っ白な美しい歯は、見るからに健康的な印象を与える。

 まさに、女の笑顔は歯が命と言わんばかりだ。

 その日も、Y子は周囲にとびきりの笑顔を振りまいていた。

 そう、あの健康的で真っ白な美しい歯を口元から覗かせながら

 しかし、この時は周囲の様子がいつもとは違った。

 Y子にとっては、いつもと変わりのないとびきりの笑顔の筈だった。

 何だか気になり、Y子が鏡に向かってニッと歯を出して笑ってみると

 どういう訳か、真っ白な歯に1本の真っ黒な歯が交じっている。

 Y子は、その日の昼食に海苔巻きのおにぎりを口いっぱいに頬張ったのを思い出した。

2018年10月16日火曜日

第112話「沖縄旅行」


 Y氏は生まれてこの方、北海道の地から一度も外へ出た事がない。

そんなY氏はつい先日、古い知人からこんな誘いを受けた。

「実は一週間後に、友人5人で沖縄へ旅行の予定になっていたのだが、その内の一人が急に行けなくなってしまって

知人は困り果てた様子で、更にこう付け加えた。

「既に予約を済ませているので高額なキャンセル料がかかってしまうのだが、もしYさんの都合が良ければ一緒に沖縄へ行かないか?」

「いいよ、予定は空いているから。ただ

Y氏は何故か言葉を濁した。

その後、旅行前日のギリギリになった時、Y氏は知人に次の連絡を入れた。

「よし、明日から一緒に沖縄へ行こう!今日、ようやくパスポートがとれたよ」

2018年7月18日水曜日

第111話「受刑者の罪」


「よし、今日からここがお前の部屋だ」

その日、Y氏は看守に連れられて雑居房に送り込まれた。

やがて一週間もすると、Y氏はすっかり他の因人達と打ち解けた。

「それにしても、Yさんの話は面白いな」

「ほんと、腹の皮がよじれそうだよ」

Y氏は暇さえあれば、他の因人に笑い話を聞かせた。

その晩も、因人達はY氏の話に聞き入っていた。

「アッ、ハッ、ハッ、ハッ


すると、一人の因人がお腹を抱えて笑い転げながら、絞り出すように声を上げる。

「もう止めてくれ!これ以上聞くと、笑い死にしそうだよ」

そこで、別の因人がY氏に話しかけた。

「ところでYさんは、ここへ何の罪でやって来たの?」

「俺はただ、友人に面白い話を聞かせただけさ